ご案内
内閣府が2007年9月に発表した「国民生活に関する世論調査」(7月に全国の成人一万人を対象に実施)によると、日常生活に「悩みや不安を感じる」と答えた人が、前回調査(06年)を1・9ポイント上回る69・5%にのぼり、2年連続で過去最高を更新した。
一方「悩みや不安を感じない」は29・6%で、調査開始以来、初めて3割を切った。
具体的な悩みや不安の中身(複数回答)は「老後の生活設計」(53・7%)、「自分の健康」(48・3%)などが多かった。
同府は「公的年金保険料の記録漏れ問題などで老後への不安が顕在化したことが影響した」とみている。
今後の生活が「悪くなる」との回答も29・1%と前回調査比3・1ポイント増加。
「良くなる」は同11・3ポイント減の8・3%にとどまった。
政府への要望(複数回答)では「医療・年金などの社会保障構造改革」(72・4%)が4年連続で最多だった。
ひとつの成功例として、英国の政策が参考になるかもしれない。
元首相はイラク派兵で引責辞任したが、貧化して、医師のみならず患者も海外に逃げ出した英国の医療を立て直した。
プレア政権が行ったのは、第一に医療費の増額である。
エコノミストの推計によれば、対GDP比で2000年に7・3%と日本の7・9%より0・6ポイント低かったのが、05年には8・6%となり、2010年には9・2%になるという。
日本では、小泉・安倍構造改革の影響を受けて、05年は7・4%と、0・5ポイントのマイナス成長、2010年も7・8%と高齢化による微増のみ。
英国の医療費の年伸び率が02〜07年の5年間で約2%(金額に換算して約10兆円)というから、医療崩壊の国も経験したことのない未曾有の高齢社会が到来するなか、医療制度への不安が顕著だ。
医師不足、高齢者対策、救急患者のたらい回しなど、医療に関わる問題が、連日のように新聞の見出しになっている。
日本の医療の危機は、もはや国民に共通の切実な問題といっていいだろう。
果たしてこうした問題を解決することは可能なのだろうか。
財源が潤ったことで、医療資源も緩やかに増加している。
例えば専門医・研修医数の年伸び率は00年〜04年で6・3%、看護師数も同時期で4・21%、さらに手術室数も4・4%増えている。
その結果、英国最大の懸案だった長い入院待ちは短縮傾向にある。
イングランドで9カ月以上入院待ちの患者が00年3月に約14万人いたのが、04年4月にはゼロになっている。
救急医療についても、やはりたらい回しが社会問題となり、「急を要する患者を到着後どのくらい早く診てくれるか」という指標を公開するよう、病院に求めている。
一方、わが国はどうだろう。
入院・救急待ちのデータは公開されていないが、総務省消防庁の調査によれば、06年の産科・周産期傷病者搬送人数3万9015人のうち、53・4%は分娩に対応できないという理由で他の医療機関に転院搬送されたという。
さらに驚いたことに、医療機関への受け入れを5回以上断られたケースが220件(0・6%)、10回以上断られたケースが45件(0・1%)もあった。
医療費のみならず医療アクセスでも、英国に後れを取っている。
英国が量的確保の次に行ったのは、質と安全の改善である。
まさに「衣食足りて礼節を知る」。
特定の疾患領域をターゲットとした政府主導の医療政策が実施されているのだ。
それどころか、厚生労働省(以下厚労省)に危機意識は全くなく、「医師は毎年約7700人誕生しており、退職などを差し引いても毎年3500〜4000人ずつ増え、15年後の2022年には30・5万人で需給が均衡する」という。
もともと諸外国と比べて医師、看護師数は相応であるのに対し、医療機関および病院数が多いと考えていた政府にとって、医師不足による病院・病棟閉鎖は想定の範囲内である。
ダメ押しは4回連続のマイナス改定だ。
特に06年度では3・16%という史上最大のマイナス診療報酬改定を浴びせた。
唯一の増収源とされる実質の7対1看護(患者7人に対しナース1人を付けた時の料金)の新設によって「看護師獲得競争」が起こり、これに敗れた医療機関は、「退場」を余儀なくされている。
これも国が仕掛けた戦略だ。
さしずめ医療費の増額を国民に課した以上は、その見返りとして、がん、小児救急、精神疾患、心疾患、糖尿病、腎疾患、長期療養、老人医療などについて、国がきちんと面倒を見るということである。
英国は官主導の医療提供体制になっているため、確実に政府のプログラムが履行される。
つまり、医療機関が計画的に各地域に配備され、地域的偏在などは起こりにくいのである。
自由開業医制を取るわが国では、医療機関・医師の偏在に、政府の「打つ手」はほとんどない。
厚労省は高みの見物といったところだ。
本当にこれで国民主体の医療と言えるのだろうか。
患者が医療機関・医師を選択できるなど夢のまた夢。
それではどうしてこんな事態に陥ったのか。
それはわが国の医療システムがおかしいからだ。
しかし、究極は経済面、すなわち医療費の問題に行き着く。
わが国の医療現場で起こっている諸々の問題を烏鰍するとともに、第2部ではこうした状況をいかに克服するか、医療経済学者の立場からその救済策を紹介する。
2005年9月に拙著「日本の医療が危ない」が出て2年半がたつ。
医療崩壊は国民が実感するところまで忍び寄っている。
ほら、見たことか!とつき離すことなく、医療危機をいかに脱却するか、厚生労働大臣に成り代わって、わが国の医療地図を今一度、描いてみることにする。
医師不足が深刻化している。
毎年約8000人が新たに医師免許を取得し、医師数は着実に増えている。
ところが地方の病院を中心に、人材不足を理由に診療科を縮小したり閉鎖したりする病院が相次ぐ。
医師の偏在、新しい研修制度の誤算、「白い巨塔」といわれた大学医局支配の崩壊。
様々な要因が傷口を広げ、医師関係者からは「このままでは日本の医療は崩壊する」という悲痛な訴えも聞かれる。
そこで本章では、まず「医師不足」の深層を探ることにする。
そもそも医師の需要が増えたのは、1961年に国民皆保険が始まって医療需要が急増したことによる。
そこで国は、70年に「80年までには人口10万人当たり医師150人を確保すること」を当面の目標とし、73年には「一県一医科大学構想」が閣議決定された。
国立医大の新設などが進められた結果、81年には医学部(医科大学)の入学定員は8360人となった。
人口10万人対医師数150人という目標は83年に達成されたため、今度は逆に医師過剰が憂慮されるようになったのだ。
84年には将来の医師需給に関する検討委員会が設けられ、86年6月の最終意見で「1995(平成7)年を目途に医師の新規参入を最小限10%削減すべきである」と提言された。
これを受けて、大学医学部(医科大学)の入学定員削減、または募集人員削減が行われてきたことは記憶に新しい。
さらに、93年には医師の需給に関する検討委員会が設置され、将来的に医師過剰になるという意見書が出された。
その結果、従来目標としていた医学部入学定員の10%削減の未達成分を包含した上で、新規参入医師数を現状から10%程度削減することが提言された。
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